明治・大正期の寄席の時代、落語・浪曲・漫才とともに、講談も庶民の楽しみであり、講談師の流れるような口調から、寄席に集う人々は、真田十勇士や岩見重太郎などの英雄・豪傑・侠客の活躍の様を想像し、胸踊らせた。その毎回の講演を、速記者が書写し、それに手を加えて出版したものが「講談速記本」と言われるものである。
「講談速記本」の嚆矢は、西洋近代速記術が日本に紹介された2年後の明治17年、東京で出版された三遊亭円朝の「牡丹灯籠」と言われている。
大阪は、遅れること5年、明治22年9月に落語・講談など演芸の速記を主とした雑誌「百千鳥」が駸々堂から出版されたのに始まる。以後、講談速記本は、講談師の活躍とともに、数多くの読者の心を掴み、また、貸本屋の重要な商品として、駸々堂を始め、当時の大阪の主だった出版社、岡本増進堂、博多成象堂、柏原奎文堂などの種々様々な出版社から発行されることとなった。
その後、講談速記本の読者層が広まるに沿って、速記者の創作部分が多くなり、読み物として独立していく道をたどる。そこに登場するのが、今なお多くの日本人の郷愁を誘う立川文庫である。
今回は、当館が所蔵する約400冊の講談速記本から、その過渡期にある玉田玉秀斎講演、山田唯夫等速記、立川文明堂(明治37年創業)刊の速記本を中心に展示し、その概要を見てみたい。
参考文献
明治期速記本基礎研究 |
旭堂小南陵著 大阪 たる出版 1994.8 |
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立川文庫の英雄たち |
足立巻一著 東京 文和書房 1980.8 |
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女紋 |
池田蘭子著 東京 河出書房新社 1960.1 |
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明治の上方講談師 1−24回 |
旭堂南陵著 雑誌「上方芸能」掲載 7−30号(1969.5-1973.7) |
雑-2327 |
展示資料リスト
A 大阪の講談速記本
1.神田白竜講演・丸山平次郎速記 「大道寺源左兵衛門」 |
駸々堂 明治29 |
229.8-349# |
2.神田白竜講演・丸山平次郎速記 「(伊達騒動)乳人政岡」 |
駸々堂 明治43 |
229.8-337# |
3.神田白竜講演・丸山平次郎速記 「(講談)朝比奈巡島記」 |
駸々堂 明治44 |
229.8-339# |
4.神田白竜講演・丸山平次郎速記 「(関西漫遊)水戸黄門実記後編」 |
柏原奎文堂 明治45 |
229.8-333# |
5.旭堂小南陵講演・山田都一郎速記 「飯田武勇伝」 |
島之内同盟館 明治44年 |
229.8-731# |
6.玉田玉秀斎講演・山田酔神速記 「(奥平源八郎)浄瑠璃坂仇討」 |
中川玉成堂 明治36 |
229.8-555# |
B 東京の講談速記本
7.松林百燕講演・速記社々員速記 「栗原百介」 |
萩原名月堂 明治31年 |
229.8-751# |
8.田辺南鶴講演・一ツ穴の狢速記 「(怪談)百鬼夜行」 |
春江堂 明治39 |
229.8-711# |
9.鈴木金輔編 「(千変万化)白狐おせん」 |
大川屋書店 明治42 |
229.8-967# |
10. 松林百燕講演・速記社々員速記 「(敵討)正木武勇伝」 |
武田音作 田中正平 明治31 |
229.8-753# |
C 立川文明堂の速記本
11. 玉田玉秀斎講演・山田唯夫速記「( 吉野山豪僧)
最後の南岳坊」 |
明治43 |
229.8-447# |
12. 玉田玉秀斎講演・山田唯夫速記 「( 加藤家十虎勇士)
赤星太郎兵衛」 |
明治44 |
229.8-595# |
13. 玉田玉秀斎講演・山田唯夫速記 「( 豪傑)
花房一角」 |
明治44 |
229.8-451# |
14. 玉田玉秀斎講演・山田唯夫速記 「富士野巻狩」 |
明治44 |
229.8-579# |
15. 玉田玉秀斎講演・山田唯夫速記 「( 片鎌鎗の達人)
宝蔵院覚禅」 |
明治44 |
229.8-581# |
16. 玉田玉秀斎講演・山田唯夫速記 「( 天目山大仇討)
三浦武勇伝」 |
明治44 |
229.8-443# |
17. 玉田玉秀斎講演・山田顕速記 「( 侠客)
旭権五郎」 |
大正5 |
229.8-437# |
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