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第38回大阪資料・古典籍室1小展示
平成12年10月18日(水)〜11月29日(水)


江戸のまんが「鳥羽絵(とばえ)」と「耳鳥斎(じちょうさい)」





鳥羽絵

 鳥羽絵は江戸時代中期に大坂で流行った滑稽な絵である。手足が異様に細長く、目は黒丸か「一」文字に簡略化され鼻も低く大きな口を持ち、誇張と動きがある。この誇張と動 きは、現代の漫画にも通じるものがあり鳥羽絵はその後、北尾政美の『略画式』や葛飾北斎 の『北斎漫画』などを経てG.ビゴ−の時局風刺雑誌『トバエ』やポンチ絵へと続いて行 く。「トバエ」という言葉が「漫画」を意味する言葉として大正期まで使われていたことからもその影響力の大きさが窺える。

 鳥羽絵は版本の形で大坂から瞬く間に全国に広がっていった。描かれるテ−マが主として庶民の生活に向けられていたため、庶民は受け入れやすく軽妙で面白おかしい描写に笑い転げたのではないだろうか。世界に類を見ないといわれる「マンガ」文化を持つ日本だ が、案外こんな頃から培われて来たのではないかと思える。


【展示資料】


『画本手鑑』 6冊 大岡春卜画 享保5(1720)年刊           914-94
 様々な絵の様式を紹介したものであるが、鳥羽絵を「狂画」と呼び手足の細長、小眼大口を特徴としてあげている。大岡春卜は狩野派を学び法眼の称号をもつ大坂の代表的な絵師。
『鳥羽絵三国志』 3冊 筆者不詳                     914-48
 鳥羽絵本の中で最も初期の部類に入る。
 京都・大坂・江戸の風俗と行事を描いている。
『鳥羽絵筆拍子』 3冊 長谷川光信画 明和9(1772)年刊(享保9年初版)  914-80
 歌舞伎、武者絵、祭り風景をユ−モラスに描いている。長谷川光信は松翠軒または永春ともいった大坂の浮世絵師。
『鳥羽絵扇の的』 3冊 筆者不詳                     914-50
 1年12ヵ月の庶民の生活情景や滑稽風景など漫画的空想の世界を描いている。
『軽筆鳥羽車』 3冊 筆者不詳                    914-102
 諺を鳥羽絵スタイルで描いたもの。
『鳥羽絵欠び留』 3冊 竹原春朝斎画 寛政5(1793)年刊(享保5年初版)  914-54
 ユニ−クな発想が面白い、いかにも漫画的な本。竹原春朝斎は『摂津名所図会』『大和名所図会』などの名所絵で名を成した大坂の絵師。

*鳥羽絵本は需要も多かったらしく奥付を改ざんした、後摺り本が多く出回っており、最初の刊行年が定かでないものもある。だいた い、享保年間から宝暦年間に出されたものであろうと思われる。



耳鳥斎

 近世大坂画壇の中でとりわけユニ−クな存在としてあげられるのが耳鳥斎である。生没年不明だが、安永期ごろの人で本名松屋平三郎、住居は京町堀または江戸堀あたりと言われ、生業は酒造業、のち骨董商を営んだといわれる。この人は、本業はともかくとして画業のほか素人浄瑠璃でも名人で当時の大坂では有名であったらしい。いわゆる典型的 な町人旦那芸を身につけた人物といえる。
 彼の描く絵は戯画性と言う意味で鳥羽絵の延長線上に置かれるが、滑稽や風刺だけでな く速筆略画の中に市井の風俗や情感も交えて描かれおかしみの他にしみじみとした深い味わいがある。


【展示資料】


『蒹葭堂雑録』 5冊 暁鐘成編 松川半山画 安政6(1859)年刊      041-436
俳優角觝の姿を描くに、あらぬさまにうつせども、其情態をよく模してすこぶる雅致なり・・・とある。
『浪華なまり』 2冊 莚破居士著 江戸期刊              578-12
画人の項で耳鳥斎の戯画は鳥羽僧正もはだしにて・・・とある。
『絵本水や空』 3冊 耳鳥斎画 安永9(1780)年刊 (展示本は複製)   974-88
三都の芝居名優似顔絵集。上巻−大坂14名、中巻−京15名、下巻−江戸14名となっている。大坂では安永9年の角の芝居の当たり狂言を描いている。
『旦生言語備(やくしゃものいわい)』 上・下2冊 流光斎如圭画 天明4(1784)年刊 (展示本は複製) 971-104
中村富十郎、嵐雛助、沢村国太郎等当時京阪で活躍中の役者50人の全身像を描き、自作発句と屋号・俳名を記した物。
『絵本舞台扇』 3冊 勝川春章・岸文調画 明和7(1770)年刊  (展示本は複製) 914-114
豪華錦絵摺りの江戸版役者絵本。
『あらし小六過去物語』 上・下2冊 蝙蝠軒魚丸著 耳鳥斎画 寛政9(1797)年刊   971-166・168
歌舞伎役者の三代目嵐小六(初代嵐雛助)の舞台初日前の突然の頓死と冥土での物語 を浄瑠璃仕立てにした戯作。
『野暮の枝折』 2冊 若井時成著 耳鳥斎画 寛政11(1799)年刊      255.9-38
大坂花街の遊びの穴を談義本風の構成で描いた作品。いわゆる洒落本。
『歳時滅法戒』 1冊 耳鳥斎画 享和3(1803)年刊 (展示本は複製)   914-218
京大坂の年中行事を描いたもの。
『絵本古鳥図賀比』 3冊 耳鳥斎画 文化2(1805)年刊          914-52
世の中の相対する事柄をとらえ比較したもの。しゅうぎ(祝儀)、ぶしゅうぎ(不祝儀)、がんじょう(頑丈)ふがんじょう(不頑丈)など14項7対からなる。



【参考文献】


『絵本の研究』 仲田勝之助著 美術出版社 1950年     911-615#

『大阪漫画史』 清水勲著 ニュ−トンプレス 1998年      726.1-672N

『江戸のまんが』 清水勲著 文芸春秋 1981年         919-373#

『上方浮世絵の再発見』 松平進著 講談社 1999年       721.8-119N

『近世大坂画壇の調査研究』 大阪市立博物館 1998年     721-95N