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第50回大阪資料・古典籍室1小展示
平成14年11月1日(金)〜平成15年1月17日(金)



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絵入根本の世界





妹背通転絵入根本とは歌舞伎の台帳(脚本)を印刷刊行したもので、多くは絵入りであることからこの名称がついています。

上方独自のものでその最初は天明4年(1784)に出た『思花街容性』(おもわくくるわかたぎ)です。最盛期は文化から天保期であり、最後の刊行は明治6年(1873)の『其粉色陶器交易』(そのいろどりとうきのこうえき)です。その多くは大阪の書肆河内屋太助店から出版されています。

本文形式は台帳と同様で、せりふとト書、舞台書まで整うものですが、多少の省略や場割の変更などもあり、配役も実際のものではなく物故者が入っていたりで出版当時の理想を表した物になっています。挿絵は役者似顔絵で舞台面の図が多く、冒頭には極彩色のものが数葉入り、各冊挿絵が入るなど、当時流行の兆しにあった読本の様式に倣っています。

元禄期の頃より歌舞伎の絵入り筋書き本が刊行されていましたが、筋書きだけでは満足を得られず、より詳細な台帳を読みたいという読者の要求の高まりがあり、まず貸本屋が台帳の写本でその求めに応じていたのが、量的に応じきれなくなった時、出版という形に変わっていったのではないかとされています。完全な台帳の翻刻とはいえませんが、それまで門外不出であった台帳の刊行が行われたことは歌舞伎界にとっては革命であったといえるでしょう。

現存は約70種といわれていますが当館ではその内46種を所蔵しています。今回はその一部を紹介します。(右上写真は『妹背通転』より)



展示資料

『大岡裁判獄門金蔵』(おおおかさいばんごくもんきんぞう) 勝諺蔵著 写 9冊 朝日252-68

歌舞伎台帳と言われるもの。脚本。 
芝居が単純なものであった頃は必要ではなかったが、芝居が複雑になり上演のための帳面として覚書や控を書き留めたのが始まりといわれる。
これは明治期のものである。

『宿無団七時雨傘』(やどなしだんしちしぐれのからかさ) 並木正三著 松好斎半兵衛画 [享和2(1802)] 上・中・下 1冊   252-162

題簽: 「絵本戯場栞」
初演 明和5年7月大阪角の芝居。

『戯場言葉草』(しばいことのはぐさ) 松好斎半兵衛画 享和3(1803) 5巻5冊 朝日252-13

初演 天明4年正月大阪角の芝居で「思花街容性」の題で上演、「戯場言葉草」は根本の題。並木五瓶作。所載の番附は享和3年正月京吾妻徳次郎の再演のもの。 
享和3年正月京都で上演された時、根本として刊行したと、序文 「根本通言記」にある。全部舞台造物の画で役者の口絵はない。

『忠臣連理鉢植』(ちゅうしんれんりのはちうえ) 松好斎半兵衛著・画 上・下2冊 252-216

初演 天明8年2月「義臣伝読切講釈」大阪大西芝居で上演。
「忠臣連理の鉢植」はこの義臣伝の三幕目と四幕目が独立したもの。作奈河七五三助、並木正三、辰岡萬作。

『契情筥伝授』(けいせいはこでんじゅ) 並木意院松 文化4(1807) 1冊 252-134

内題:「絵本戯場語」
初演 文化元年正月、大阪角の芝居「けいせい箱伝授」
全巻画ばかりで文字は小さく雲形のなかにせりふをいれ、様式上他の絵入根本と異なっている。

『戯場壁生草』(しばいいつまでぐさ) 松好斎半兵衛画 文化5(1808) 6巻6冊 朝日252-23

初演 寛政6年5月京西の芝居「五大力恋緘」

『文月恨切子』(ふみづきうらみのきりこ) 春好斎北洲画 文化7(1810) 上・中・下1冊  252-204

角書 昔の古手今の新物
初演 明和元年8月大阪中の芝居。並木永輔作。
浄瑠璃、三味線、長唄等を含めていずれも文化初年頃の人気俳優を番附にあげている。舞台を裏側から観客の方に向かって描いた画がある。

『定結納爪櫛』(かみかけてちかいのつまぐし) 狂画堂蘆洲画 文化12(1815) 4巻2冊 朝日252-25

題簽:「必ずあふと後の文 添て送りし一品は神かけて誓爪櫛」 
初演 文化11年8月大阪角の芝居。 奈河晴助作。
所載の番附は初演時のものであろう。その序に「角の芝居の新狂言に取り組み作者春陽堂の蔵書なるをひたすらこいもとめ且は幕数多くて出ざる場もおぎない画工蘆洲先生の筆働を加へ居ながら舞台を見るが如く・・・」とある。

『文化11年8月朔日 大阪角の芝居芝居番附』  974-2

前狂言 比良嶽雪見陣立 切狂言 定結納爪櫛
座元 市川善太郎

『絵本三拾石艠始』(えほんさんじっこくよぶねのはじまり) 暁鐘成画 文政4(1821) 6巻1冊 朝日252-24

初演 宝暦8年12月大阪角の芝居。並木正三作「三十石?始」

『於染久松色読販』(おそめひさまつうきなのよみうり) 四世鶴屋南北著 歌川国貞画 天保2(1831) 4巻6冊 252-150

初演 文化10年3月森田座 
番附は初演時と文政3年大阪中の芝居。かつら師友久郎の像、七役早代わりの衣裳を仕立てる図、駕抜の切穴を誂る花道の図等ある。上方出版の多い絵入根本の中で作者も画工も江戸で出版だけが大坂である。

『契情稚児淵』(けいせいちごがふち) 柳斎重信画 天保3(1832) 7巻7冊 朝日252-16

番附題 姉恋路妹通路「けいせい稚児淵」
初演 天明2年正月京都山下座。筒井半ニ作。

『敵討浦朝霧』(かたきうちうらのあさぎり) 奈河晴助著 春江斎北英画 天保5(1834) 7巻7冊 朝日252-20

初演 文化12年9月大阪中の芝居。
所載番附に網干右兵衛之助を故人嵐吉三郎としてあるがこれは初演の時好評を得た二代目吉三郎である。

『絵本傾城佐野舩橋』(えほんけいせいさののふなばし) 南々川貞広画 天保9(1838) 7巻7冊  朝日252-2

初演 寛政元年12月大阪中の芝居「けいせい佐野の舩橋」 奈河七五三助作。補助亀輔

『妹背通転』(いもせのくるまき) 浅山蘆国画 天保13(1842) 3巻4冊 朝日252-14

初演 享和2年5月大阪中の芝居。近松徳三作 狂言題「京羽二重新雛形」
彩色挿絵お花半七道行の場が見開両面にありそれを左右に開くと三幕目舞台が四面に描かれ「京羽二重新雛形」の看板が見える。 

『雑唱歌長崎土産』(はやりうたながさきみやげ) 狂画堂蘆洲画 天保13(1842) 6巻7冊 朝日252-29

初演 享和2年1月京北側芝居「拳褌廓大通」

『其粉色陶器交易』(そのいろどりとうきのこうえき) 佐橋富三郎著 白水広信画 明治6(1873) 3巻3冊  朝日252-10

初演 明治5年11月京都北側芝居。
口絵初演時の配役と同じ。スマイルの「セルフ・ヘルプ」を中村敬宇が訳した「西国立志篇」からの翻訳劇である。最初の散切物であり、絵入根本の最終出版といわれる。



参考文献


『歌舞伎図説』 守随憲治、秋葉芳美撰 万葉閣 1931 あ-154
『演劇百科大辞典』 早稲田大学演劇博物館編 平凡社 1960 970-609
『歌舞伎年表』 伊原敏郎著 河竹繁俊・吉田暎ニ編集校訂 岩波書店 1973 971-155
『日本大学図書館蔵 根本目録』 日本大学図書館 1964 011-899
『江戸の演劇書-歌舞伎編-』 赤間亮編著 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館 1991 774-31N
『岩波講座 歌舞伎・文楽 第4巻』 岩波書店  774-83N
「文運東漸と大坂書肆小攷」 山本卓著 (『文学』2000年9・10月号所収)
「絵入根本目録(未定稿)」 須山章信著 (『青須我波良』16号所収)


中之島図書館蔵 絵入根本一覧


『吾嬬下五十三駅』(あずまくだりごじゅうさんつぎ) 玉塵園雪住著 長谷川貞信画 [安政2(1855)] 5巻後編7巻(欠6巻)11冊   朝日255.6-5
『伊賀越乗掛合羽』(いがごえのりかけかっぱ) 安永6(1777) 5巻5冊 252-136
『妹背通転』(いもせのくるまき) 浅山蘆国画 天保13(1842) 3巻4冊 朝日252-14  
『絵本姉妹達大礎』(えほんあねいもうとだてのおおきど) [浅山蘆国画] 天保13(1842) 2冊 朝日252-5
                                                         7冊 252-146
『絵本いろは仮名四谷怪談』(えほんいろはがなよつやかいだん) 春梅斎北英画 天保5・6(1834・1835) 5巻後編5巻4冊 朝日252-70
『絵本花楓秋葉話』(えほんかけはしものがたり) 松好斎半兵衛画 6巻6冊 朝日252-9
『絵本川崎音頭』(えほんかわさきおんど) 鉄格子編 松好斎半兵衛画 4巻2冊  朝日252-26
『絵本傾城佐野の舩橋』(えほんけいせいさののふなはし) 南々川貞広画 天保9(1838) 7巻7冊  朝日252-2
『絵本傾城飛馬始』(えほんけいせいひめはじめ) 暁鐘成画 文政7(1824) 7巻10冊 朝日252-1
『絵本黄金?』(えほんこがねのしゃちほこ) 春好斎北洲画 天保13(1842) 7巻7冊 朝日252-19
『絵本三拾石?始』(えほんさんじっこくよぶねのはじまり) 暁鐘成画 文政4(1821) 6巻1冊 朝日252-24
                                                    6巻6冊  252-148
『大門口鎧襲』(おおもんぐちよろいがさね) 暁鐘成画 文政9(1826) 7巻2冊 朝日252-8 
『於染久松色読販』(おそめひさまつうきなのよみうり) 四世鶴屋南北著 歌川国貞画 天保2(1831)
                                   4巻5冊 朝日252-4
                                   4巻6冊 252-150 
『敵討浦朝霧』(かたきうちうらのあさぎり) 奈河晴助著 春江斎北英画 天保5(1834)7巻7冊 朝日252-20
『敵討高音鼓  前編』(かたきうちたかねのつづみ ぜんぺん) 梅窓園貞芳画 天保12(1841) 5冊252-152  
『かたきうち義恋柵』(かたきうちちかいのしがらみ) 春梅斎北英・五蝶亭貞広画 天保8(1837) 5巻後編5巻10冊 朝日252-18
『定結納爪櫛』(かみかけれちかいのつまぐし) 狂画堂蘆洲画 文化12(1815) 4巻2冊  朝日252-25
『霧太郎天狗酒宴』(きりたろうてんぐのさかもり) 暁鐘成画 天保13(1842) 7巻1冊 朝日252-27 
『鞋補童教学』(くつなおしわらべきょうがく) 佐橋富三郎著 白水広信画 明治6(1873) 3巻3冊 朝日252-3 252-138
『桑名屋徳蔵入船噺』(くわなやとくぞういりふねばなし) 暁鐘成画 文政5(1822) 7巻1冊 朝日252-30
『契情遊山桜』(けいせいあそやまざくら) 貞広・貞芳画 7巻後編6巻(欠前編巻6・7後編巻6)10冊  252-200
『けいせい天羽衣』(けいせいあまのはごろも) 柳斎重春画 天保4(1833)7巻7冊 朝日252-15
『けいせい挾妻櫛』(けいせいさつまぐし) 柳斎重信画 文政13(1830) 7巻7冊 朝日252-17
『けいせい素袍■』(けいせいすおうのだいり) 柳斎重春画 文政14ママ(1831) 7巻8冊 朝日252-12
                                     天保13(1842) 7巻7冊 252-140
『契情稚児淵』(けいせいちごがふち) 柳斎重信画 天保3(1832) 7巻7冊 朝日252-16
『契情筥伝授』(けいせいはこでんじゅ) 並木意院松 文化4(1807) 1冊 252-134
『傾城倭荘子』 (けいせいやまとぞうし) 天保13(1842) 6冊 252-142
『契情会稽山 前編』(けいせいゆきみるやま ぜんぺん) 五蝶亭貞広画  天保13(1842) 7巻7冊  252-208
『猿曳門出諷』(さるまわしかどでのひとふし) 天保13(1842) 2巻1冊 朝日252-28  
『戯場壁生草』(しばいいつまでぐさ) 松好斎半兵衛画 文化5(1808) 3巻4冊 朝日252-23
『戯場言葉草』(しばいことのはぐさ) 松好斎半兵衛画 享和3(1803) 5巻5冊 朝日252-13
                                   文化3(1806) 5巻5冊 252-144
『劇場菊の戯』(しばいきくのたわむれ) 松好斎半兵衛画 文化元(1804) 2冊 252-214
『春景浅茅原』(しゅんけいあさじがはら) 笑門亭編 浅山蘆国・喜多川北麿共画 文化5(1808)6巻6冊    252-212
『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ) 7巻7冊 朝日252-22 
隅田春奴女容性』(すみだのはるげいしゃかがぎ) 暁鐘成画 文政8(1825) 5巻5冊 252-210
『其粉色陶器交易』(そのいろどりとうきのこうえき) 佐橋富三郎著 白水広信画 明治6(1873) 3巻3冊  朝日252-10
『忠臣連理鉢植』(ちゅうしんれんりのはちうえ) 松好斎半兵衛著・画 上・下2冊 252-216
『競伊勢物語』(はなくらべいせものがたり) 暁鐘成画 7巻7冊 252-206 
『夏祭浪花鑑』(なつまつりなにわかがみ) 長谷川貞信画 5巻後編5巻 (欠2巻)9冊 朝日252-7
『日本第一和布苅神事』(にほんだいいちめかりのしんじ) 並木正三著 暁鐘成画 天保13(1842) 7巻7冊 252-202
『雑唱歌長崎土産』(はやりうたながさきみやげ) 狂画堂蘆洲画 天保13(1842) 6巻7冊 朝日252-29
『姫競双葉絵草紙 前編』(ひめくらべふたばえぞうし ぜんぺん) 歌川国員画 5巻5冊 朝日252-21
『文月恨切子』(ふみづきうらみのきりこ) 春好斎北洲画 文化7(1810) 上・中・下1冊 252-204
『百千鳥鳴門白波』(ももちどりなるとしらなみ) 柳斎重春画 8巻4冊 朝日252-6
『俳優浜真砂』(やくしゃはまのまさご) 天保13(1842) 5巻4冊 朝日252-11
『宿無団七時雨傘』(やどなしだんしりしぐれのからかさ) 並木正三著 松好斎半兵衛画 [享和2(1802)] 上・中・下  252-162



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