第73回大阪資料・古典籍室1小展示 平成18年9月15日(金)〜11月8日(水) (入場無料) |
面影と追善
〜歌舞伎役者の死絵(しにえ)〜
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浮世絵はその画題によって、遊女や市井の評判娘・理想の女性像などを描いた美人画、 人気の歌舞伎役者を描いた役者絵、美しい風景を描いた風景画などに分類されますが、 その中に「死絵(しにえ)」と呼ばれる絵があります。 しかし、死絵に描かれているのは死そのものや死骸ではありません。 では、いったい何が描かれているのでしょうか。 今回の展示では中之島図書館所蔵の死絵をご紹介します。 ○死絵とは 主に江戸時代後期から明治時代にかけて、歌舞伎役者 などの有名な人物が亡くなった際、その死を惜しんで出版された追悼の錦絵のことです。テレビやラジオもなかった時代、いわば新聞の号外のように、訃報を伝えるのに大きな役割を果たしたと思われます。 死絵には、故人の似顔絵と亡くなった日や行年(享年)・俗名・法名(戒名)・墓所など、さまざまな情報が盛り込まれました。辞世の句や追悼の和歌が添えられているものも あります。 人気役者であるほどよく売れたため種類も多く、八代目市川団十郎が亡くなった際に作られた死絵は百種とも三百種以上ともいわれています。上方の役者の死絵もたくさんありました。 やがて時代が移り、通信技術や写真技術の進歩によって訃報が一気に全国に伝えられたり追悼写真集が出版されたりするようになると、死絵はその役目を終え、静かに姿を消しました。人気スターのよりリアルな姿を再現できるかわりに、絵を見て面影を偲ぶという風習がなくなったことは少し寂しくも感じられます。 <展示資料一覧> 凡例:(1)役者名 (2)没年月日 (3)行年 (4)法名 (5)墓所 (6)辞世など (7)絵師名 (8)その他 (9)請求記号 ※没年月日や年齢、絵師名等は死絵の表記に従った。 ※[ ]は推定を、□は解読できない文字を表す。 ◆団十郎と父・海老蔵の死絵◆ 1 (1) [市川団十郎(8代目)] (2)嘉永7(1854)8/6 (3) 32才 (4) 猿白院成清日田信士 (5) 記載なし (6) うきことをミます模様のかき置にみじかく切れし筆のいのちも 梅屋 (7)記載なし (8) (9) 枚 233 2 (1) 市川団十郎(8代目) (2) 嘉永7(1854)8/6 (3)32才 (4) 浄莚信士 (5) 一心寺 (6) にかい顔金主にさせて江戸ッ子の切て見せたる鯉のきも玉 梅屋 (7) 記載なし (8) (9) 枚 236 3 (1) [市川海老蔵(5代目)] (2)安政6(1859)3/23 (3) 記載なし (4)記載なし (5) 記載なし (6)辞世:有難やむらさきの地に法の雲 七代目白猿 (7)記載なし (8) 因州いなバかゑ哥 笑福亭松鶴作 (9) 971-78-7 ◆上方の役者たちとさまざまな死絵◆ 4 (1) [嵐璃寛(2代目)] (2) 天保8(1837)6/13 (3) 50才 (4) 釈璃順 (5) 常源寺 (6) 記載なし (7) 雪江亭北妙画 (8) (9)971-78-1 5 (1) 嵐璃寛(2代目) (2) 天保8(1837)6/13 (3) 50才 (4)釈教順 (5) 常源寺 (6)辞世:西へゆく身ハ涼しけれ法の舟 (7)雪江亭北妙画 (8) (9) 枚 217 6 (1) 三枡稲丸(初代) (2) 安政5(1858)4/27 (3)25才 (4)妙光日梅信士 (5) 記載なし (6) 辞世:若苗の植付またす引抜れ 梅笑 (7) 広貞 (8) (9) 971-78-2 7 (1) [三枡稲丸(初代)] (2) [安政5(1858)4/27] (3) 25才 (4) 夏岳院梅笑日妙信士 (5) 記載なし (6) 解読できず (7)芳豊画 (8) (9) 971-78-3 8 (1) 市川蝦十郎(4代目) (2) [安政5(1858)]10/19 (3) 50才 (4) 釈紅寿 (5) 光明寺 (6) 辞世:はかなさはつねにこそ有り露のやと (7)記載なし (8) (9) 971-78-5 9 (1) [中村翫雀(2代目)] (2) 万延2(1861)1/7 (3) 28才 (4) 歌竹翫旭日雀倍士 (5) 記載なし (6) 辞世:春の日やおもはぬ風のさそふ梅 (7)芳瀧画 (8) (9)971-78-8 10 (1) 片岡我童(2代目) (2) 文久3(1863)2/15 (3) 53才 (4) 南松院春雲我□信士 (5) 記載なし (6)辞世:(解読できず) (7)五粽亭広貞 (8) (9) 971-78-11 11 (1)嵐吉三郎(3代目) (2) 元治1(1864)9/28 (3) 60才 (4)芳名院□誉現憐禅定門 (5) 法蔵院 (6)記載なし (7)貞広 (8) (9) 971-78-13 12 (1) 市川市蔵(3代目) (2) 元治2(1865)3/2 (3) 33才 (4)霞山高道信士 (5) 記載なし (6) 記載なし (7) 記載なし (8) (9) 971-78-14 13 (1) 実川額十郎(2代目) (2) 慶応3(1867)2/22 (3) 55才 (4) 額妙院延賞日寿信士 (5) 本照寺 (6)ならび咲蓮にそいたる二葉艸 (7) 記載なし (8) (9)971-78-15 14 (1) [実川額十郎(2代目)] (2) [慶応3(1867)2/22] (3) 55才 (4) 記載なし (5) 記載なし (6) 春風やおもはぬ方へ梅の散 (7)記載なし (8) (9)971-78-17 15 (1) 実川延三郎(2代目) (2) 明治5(1872)11/9 (3) 25才 (4) 延住院額山日照信士 (5) 記載なし (6)記載なし (7)笹木画作 (8) 八尾善梓 (9) 971-78-19 16 (1)尾上卯三郎・尾上多見丸 (2) [明治6(1873)?] (3) 記載なし (4) 記載なし (5) 記載なし (6)記載なし (7)記載なし (8) 大津画ぶし 林家正三戯作 (9) 971-78-22 八尾善板 17 (1) [中村慶女] (2) [明治8(1875)8/15] (3) 記載なし (4) 慶覚院日浄蓮誉信士 (5) 記載なし (6)記載なし (7)芳瀧筆 (8) 川伝板 (9) 971-78-23 <主な参考文献> †上方の咄家と天保・幕末期の流行唄(上・下) 荻田清 (『芸術史研究』92・93号所収) 1986年 【雑3421】 †『上方板歌舞伎関係一枚摺考』 荻田清 清文堂出版 1999年 【774.2-150N】 †「死絵」について―基礎的事項の確認― 原道生 (『生と死の図像学―アジアにおける生と死のコスモロジー―』所収) 至文堂 平成15年 (央)【722-3N】 †役者絵・死絵のなかの和歌 原道生 (『和歌をひらく 第3巻 和歌の図像学』所収) 岩波書店 2006年 (央)【911.1-234N-3】 †『団十郎と死絵』 陶智子 桂書房 1996年 【210.5-220N】 †『浮世絵の鑑賞基礎知識』 小林忠/大久保純一 至文堂 1994年 (央)【721.8-44N】 †『上方浮世絵の再発見』 松平進 講談社 1999年 【721.8-119N】 †『上方浮世絵の世界』 松平進 和泉書院 2000年 【721.8-146N】 †『歌舞伎俳優名跡便覧〔第3次修訂版〕』 国立劇場調査養成部調査資料課編 日本芸術文化振興会 平成18年 【774.2-139N】 ◎ 今回の展示資料の解読等について、梅花女子大学短期大学部教授荻田清先生にご教示いただきました。 記して深謝いたします。 |
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